Hudl Statsbomb の Defensive Responsibility モデルは、センターバック個人をチームシステムから切り離して評価することで、スカウトやアナリストが Jリーグのディフェンダーをより正確に把握できるようにします。
日本はこれまで、高強度でテクニカルな攻撃的選手を多く輩出してきたことで知られています。しかし近年、守備的ポジションの選手も増加しています。こうしたポジションの日本人選手が 欧州リーグへの移籍を果たし定位置を確保するケースが増加している 中、彼らをどのように評価すべきかという問いはますます重要になっています。 今夏リリースされた Hudl Statsbomb の Defensive Responsibility(DefR) モデルは、この問いに新たなアプローチを提供します。
DefR は従来の守備指標とは逆のアプローチを取ります。従来の手法ではディフェンダーの行動を特定し、その価値を評価していましたが、DefR ではまず攻撃側の行動に着目し、その価値を算出したうえで逆算していきます。具体的には、アクションが発生した場所、攻撃の勢い、守備チームの陣形を確認し、そのシチュエーションで通常どのポジションのどのディフェンダーが対処すべきだったかを特定します。
これによって二つの指標が得られます。一つは、ディフェンダーが期待値より多く守備アクションを行ったか少なかったか(DefR)。もう一つは、相手が生み出した攻撃価値(On-Ball Value)のうち、そのディフェンダーが担当するスペースをどれだけ通過させてしまったかです。
J1百年構想リーグ は、日本全国でチームの実験と結束強化が試みられた大会でした。DefR を活用して大会に出場した優れたディフェンダーを分析し、2026/27 シーズン本戦で注目すべき選手のパフォーマンスを見ていきましょう。
Jリーグのセンターバックを可視化する まず、J1百年構想リーグにおけるセンターバック全体の状況を確認しましょう。出場時間が 900 分を超える選手に絞り込み、レギュラーとして起用された選手を中心に分析します。これにより、J1 レベルのセンターバック 54 人を対象プールとして設定しました。
DefR に関するメイン記事で説明しているとおり 、「Responsibility-Weighted OBV Conceded per 90」と「Defensive Actions Above Expectation per 90」という二つの軸に沿ってデータポイントを分類し、四つの象限を生成します。
この二つの指標を組み合わせることで、ディフェンダーの積極性だけでなく、担当エリアでどれだけの攻撃価値を許容しているかも把握できます。イベントデータのみでは不可能だった、より包括的な守備貢献の全体像が得られます。
Jリーグの文脈で、各象限を詳しく見ていきましょう。
右上象限:前に出ることが効果を生む この象限に位置する選手として、 Ibrahim Dresevic、大村大八、荒木隼人、住吉ジェラニ、 そして 大森博 。これらのセンターバックに共通するのは、積極的なディフェンスと、担当「ゾーン」(ゾーンディフェンスという意味ではなく、責任エリアという意味で)内の脅威を封じる傾向です。いずれも、先手を打って攻撃を抑え込むタイプのディフェンダーです。 積極的アクション指標では、大村が 54 人中 4 位、中山が 5 位、Dresevic が 8 位を記録しており、彼らの介入の積極性が際立っています。実際、責任加重 OBV の失点が最も少ないセンターバックのトップグループに、驚くべきことに町田ゼルビアの選手が四人も名を連ねています。同チームは 3 バックの各選手が明確な責任を持ち、攻撃の脅威を確実に阻止する守備アクションを実行できる組織になっています。
Ibrahim Dresevic 選手は特に際立った存在でした。コソボ代表のこの選手は 2024 年から町田に在籍し、3 バックの左ワイドセンターバックとして機能しています。J1百年構想リーグでは、前方の左ウイングバックが空けたスペースを巧みに保護し、カウンターアタックが完全に展開する前に積極的に阻止するとともに、自陣ペナルティエリア内でも重要なシュートブロックを記録しました。
Dresevic は 2026 年にレギュラーとしては出場しませんでしたが、チームメートも同指標で上位に名を連ねていることを考えると、競争の激しさと、町田のシステムがどの選手が入っても大きなパフォーマンス低下なくシームレスに機能することを示しています。
一方で、このデータは彼がより多くの出場機会を得るべき根拠ともなり得ます。もちろん、データ以外にも、センターバックのコンビネーションやウイングバックとの連携といった戦術的要因も考慮する必要があります。
この象限における注目の新顔は 江川湧清 選手です。2026 年に V・ファーレン長崎とともに昇格を果たした彼は、積極的な守備スタイルで高い評価を獲得しました。対象プール内のセンターバックにおいて、積極的アクション、タックル&インターセプト、プレスで 1 位を記録し、カウンタープレスとシュート対比のブロック数でも 2 位に入っています。
大森博 選手もまた 、 今シーズンのファジアーノ岡山で存在感を発揮した選手です。わずか一年前は J3 でプレーしていましたが、急激なレベルアップにもかかわらず見事なパフォーマンスを見せました。江川と大森はともに、J2・J3 に潜む才能がスマートなスカウティングによって発掘される可能性を示す好例です。
右下象限:アクションが多いことは必ずしも良いことではない この象限に登場する選手には、 Jeison Quinones と角田涼太朗 (横浜F・マリノスのコンビ)、川崎フロンターレの若手 松長根悠仁 、そして京都サンガの Henrique Trevisan などが挙げられます。
この象限の選手は、チームまたは個人のスタイルに起因する非常に積極的な守備を行う一方、守備アクションによって多くの価値を失っているケースが多いのが特徴です。ただし、これは必ずしも個人の問題ではなく、前の選手が空けたスペースを埋めようとした結果である場合も多く、個人ではなくチームの戦術的な課題を示している可能性があります。
この象限のセンターバックに見られる個人守備スタッツの傾向を示す例として、角田涼太朗選手は積極的アクションで 2 位ながら、ドリブル突破許容数では 54 人中 49 位、タックル&ドリブル突破被率では 31 位という結果でした。同様に、藤井陽也選手は積極的アクション 3 位、ドリブル突破許容 31 位でしたが、タックル&ドリブル突破被率では比較的良好な 18 位を記録しています。
21歳の 松長根悠仁 選手は、過去数年間 J3 への期限付き移籍を経験し、プロとしての出場はほぼサイドバックに限られていたにもかかわらず、J1百年構想リーグでは川崎フロンターレのセンターバックとして存在感を発揮しました。
シーズン前半を通じて、彼の判断力は J1 への適応過程にある部分が見受けられました。自分の責任外の場面でも前に出ようとする傾向があり、デュエルを失うと背後のスペースがピッチ上で最も攻略されやすいエリアになってしまっていました。
純粋な守備アクション OBV per 90 という観点では、ペナルティエリア内での価値の高いラストディッチブロックを繰り出す傾向から非常に高い順位に位置しており、興味深い選手です。Defensive Responsibility 指標は、この選手についてより深い視点を与えてくれます。この「試練の洗礼」が、2026/27 シーズンのパフォーマンス向上へのきっかけとなる可能性があります。
左上象限:ボールを追いかけるのではなく、試合を読む この象限には、 塩谷司 、 植田直通 、そして 昌子源 といった選手が位置しています。豊富なキャリアと海外リーグ・代表チームでの経験を持つ彼らは、この象限を代表するディフェンダーのタイプです。三人はいずれも豊富な経験を活かしてゲームを高精度で読み解き、本当に必要な場面のみ介入します。
鹿島アントラーズの不動の存在である 植田直通 は、実は今回の対象プール内で積極的アクションが最下位、タックル&インターセプトでも 54 人中 51 位という結果でした。しかし、ファウル数 per 90 では 3 位、シュート対比のブロック数では 8 位、空中戦勝率では 4 位を記録していることから、介入する際の効果の高さが伺えます。ヒートマップを見ると、彼の守備アクションのほぼすべてがペナルティエリア内に集中しています。
Kim Tae-Hyeon , (植田のセンターバックパートナー)もこの象限に位置していることは、二人個別の傾向というよりも、鹿島アントラーズのディフェンスシステムの影響が大きい可能性を示唆しています。その意味で、鹿島アントラーズがチームとして 2026 年リーグで 2 番目に低い積極的アクション数とプレス数を記録したことも、驚くことではありません。
この象限の若い選手、 宮本優太 、 岡哲平 、そして Kim Tae-Hyeon などは、忍耐強く鋭い洞察力を持つ守備スタイルを持つ選手として、今後 30 代に差し掛かっても充実したキャリアを歩めるか注目に値する選手たちです。
左下象限:深く、受動的で、リスクにさらされる この象限は、該当する選手について懸念が生じる可能性のある領域です。左下象限に位置する 田代雅也、田上大地、辻岡佑馬 、そして 久保庭涼 はいずれも非常に受動的な守備をしながら、相手の攻撃に対して多くの価値を許してしまっています。
極端な例として、ファジアーノ岡山の 田上大地 選手が挙げられます。彼は数多くのラストディッチブロックによって守備アクション OBV では第 99 パーセンタイルに位置していますが、全体的には自陣深くに引いた非常に受動的なディフェンダーです。3 バックの中央というポジションの特性がその一因ではありますが、タックル&ドリブル突破被率が第 7 パーセンタイルという低水準にある点は、彼がこの象限に入る理由を示しています。
田代雅也 選手の守備アクションもほぼ自陣ペナルティエリア内に限られており、プレス数は 54 人中 53 位という結果も想定の範囲内です。もちろん、それ自体は必ずしも問題ではありません。前章で見た Kim Tae-Hyeon 選手や植田直通選手が同様の順位にいたことからもわかるとおり、田代のタスクはアビスパ福岡の 3 バック中央としてカバーを提供することです。しかし、、タックル&インターセプトで 54 人中 54 位、ボール奪回で 47 位、シュート対比ブロック数で 51 位、空中戦勝利で 44 位という数字は、どのディフェンダーにとっても良い評価にはなりません。
これらのディフェンダーが批判にさらされている一方で、より完全でニュアンスのある評価を得るためには、彼らの前に立つチームの守備構造、特にセンターミッドフィールダーの動きについても慎重に考慮する必要があります。
結論:象限からショートリストへ リーグ全体をプロットすることで最も明確にわかることは、チームの守備指示がいかに可視化されるかという点です。町田ゼルビア、鹿島アントラーズ、FC 東京のセンターバックがいかに密集しているかを見てみてください。一方、ファジアーノ岡山の 2 人のディフェンダーは軸の両端に位置しています。選手が密集している場合はシステムを読んでいる状態であり、分散している場合は個人を読んでいる状態です。DefR を活用する際の実践的な出発点はここにあります。選手を評価する前にクラスターを確立することが重要です。なぜなら、ここでのディフェンダーのポジションは、個人の本能とチームの指示の両方が掛け合わさった結果だからです。
パフォーマンスアナリストにとって、DefRは双方向の武器となります。自チームの分析では、戦術上のタスクが意図通りに割り振られているか、その役割に対して選手が適材適所であるかを確認できます。また対戦相手に対しては、広範囲のカバーを強いられている選手や、担当エリアで攻撃価値を許容してしまっている選手を洗い出すことが可能です。これにより、相手の攻略可能なウィークポイントや、中盤と最終ラインの構造的な連携不足といった脆さを特定しやすくなります。
選手獲得においては、問いの立て方が「ここで最も優れたディフェンダーは誰か?」から「我々のサッカーに合った守り方をする選手は誰か?」へと変わります。Dresevic 選手のように 3 バックで積極的に価値を抑制するセンターバックが、必ずしもディープブロックでも同様の貢献を発揮するわけではありません。最も注目に値する選手は、自チームのクラスターに合致しないプロフィールを持つ選手、つまりシステム内のアウトライアーや、今シーズンの江川湧清や大森博のように下位カテゴリーから昇格してもパフォーマンスを維持する選手です。こうしたプロフィールこそ、欧州市場が気づく前に J1 のショートリストに載るべき選手です。
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